書評:『思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方』デイヴィッド・マクレイニー 著, 安原 和見 訳

私たちは自分が合理的で客観的な判断ができていると思いがちです。しかし、デイヴィッド・マクレイニーさん著の『思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方』を読むと、人間の認知にはさまざまなバイアスや論理的ゆがみがあり、賢くない面があることが分かります。本書では48もの「思考のトラップ」が具体例とともて紹介されており、読み進めるうちに自分自身のお粗末な思考パターンに気づかされます。

目次

様々な思考トラップ

最初に紹介されるのが「プライミング効果」です。人間は無意識のうちに五感から入ってくる情報で行動が左右されてしまうのです。他にも「先延ばし」「正常性バイアス」「利用可能性ヒューリスティック」など、実に様々な思考のトラップが取り上げられています。

一つひとつのトラップについて、マクレイニーさんは噛み砕いた平易な言葉で解説してくれます。例えば「先延ばし」については、「未来のあなたは信用できる人間ではない。間違いなく誘惑に負けるだろう」と書かれています。つい共感してしまう表現に納得させられます。

具体例が豊富

本書の大きな魅力は、具体例の豊富さにあります。マクレイニーさんはブログやポッドキャストでこの手の話題を長く扱ってきた経験があり、実例を随所に交えながら平易にトラップの実態を説いてくれます。

特に面白かったのが「カタルシス」の項目です。怒りの感情を発散すると、かえって攻撃性が高まるということが、興味深い実験結果とともに紹介されていました。こういった具体例があるからこそ、身近に感じられ印象に残るのです。

自身の体験から

読み進めるうちに、自分自身のお粗末な認知パターンにゆっくりと気づかされていきました。「スポットライト効果」では、人はみんな自分のことを気にかけていると思い込んでいる、と指摘があり、これにはがっくりきました。私もつい周りの人の評価過剰に意識してしまうことが多いのです。

また「同調」の項目では、私たちが思っている以上に同調し易い存在であることが説かれていました。学生時代に過剰に同調してしまった経験が蘇ってきて恥ずかしくなりましたね。

結び

本書を読み進めるにつれ、人間がいかに不合理で滑稽な存在であるかが露わになっていきます。しかし、マクレイニーさんのユーモア溢れる文体が、それを嘲笑うような伝え方ではなく、愛おしく解説してくれているのが良いところです。

これらの「トラップ」に気づくことで、少しは賢くなれる可能性があります。常に冷静でいることは難しいでしょうが、意識さえしていけば、ダメなときにそうだと気づける。そこから立ち直る一歩が用意されているのかもしれません。人間が賢くない理由を知ることで、逆説的にも前に進めるのかもしれません

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次