スティーブン・スローマンさんとフィリップ・ファーンバックさんの共著『知ってるつもり――無知の科学』は、私たちがどのように「知ってるつもり」になるのかを教えてくれる一冊です。認知科学の最新の研究成果を基に、人間がどのようにして「知っているつもり」に陥るのか、そしてその誤解がどのようにして個人や社会に影響を及ぼすのかを探ります。この本を読む前、私は自分の知識にあまり疑いを持つことはありませんでした。しかし、読み進めるにつれて、私たちの知識がいかに表層的であるか、そしてそれをどう受け止め、向き合うべきかについて深く考えさせられました。
無知の自然さとその受け入れ
著者らは、個人の知識は意外と浅く、人々が自分がどれだけ分かっていないかをしばしば認識していないと指摘します。これは「知識の錯覚」と呼ばれ、個人だけでなく社会全体に広がる誤解の一因となっています。しかし、著者らは、この錯覚が単なる問題点ではなく、社会の構成員としての私たちの能力を示すものであるとも論じています。彼らは、人間は単独ではなく、常に「知識のコミュニティ」の一部として機能していると強調し、この共同体がどのようにして私たちを賢くするかを示しています。
コミュニティ内での知識の分担
特に興味深かったのは、「知識のコミュニティ」という概念です。私たちは一人ではなく、他人との関わり合いの中で生きており、知識もまた個人に属するものではなく、社会全体で共有されているという考え方です。これまで私自身が経験した多くの学びの場面が、この視点から振り返ると、まさに他者との協働の産物であることが理解できました。
知識の錯覚への対処
『知ってるつもり』では、知識の錯覚に対する解決策を提案するところも見逃せません。私たちが自分たちの知識を過信しがちであること、そしてそれがさまざまな誤解や問題を引き起こす原因となっていることを理解することは、社会的な課題に対処するための第一歩です。私自身、この本を読んでからは、何かを「知っている」と断言する前に、もう一度考え直すようになりました。
結び
普段何気なく使っているスマートフォンやコンピューターの技術的な仕組みについて、詳しく説明できるわけではありません。しかし、それが問題ではなく、大切なのは必要な時に適切な情報を得られるよう、知識のコミュニティに頼ることができるかどうかです。
『知ってるつもり――無知の科学』は、現代社会で生きる私たち全員が読むべき重要な一冊です。自分自身の無知を認め、それをどう乗り越えていくかを考えさせてくれるだけでなく、知識のコミュニティの中でどのように生きるべきかについても示唆に富んだ内容となっています。この本を通じて、私たちは知識に関する新たな理解を得ることができるでしょう。